埃及雜記
濱田耕作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)黒土《カムト》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)アスワン[#「アスワン」は底本では「アワワン」]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ウロ/\として
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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          一

 埃及の入口ポートセイドの騷々しい港に船を降りて、一望百里鹽澤の外、何者も眼の前に見えない茫漠たる景色に接した私と倉田君とは、何處にナイルの恩惠たる黒土《カムト》の埃及が横つてゐるかを疑つたのである。これは丁度二十年前、私が太沽の沖合に船が著いて、何處に支那の國があるかを怪しんだと同じ感じであつた。併し暫くすると兩側に青い畑も見え、椰子と駱駝も現はれて來た。其の間に博覽會場の壞れた樣な家と、喪服を著けた樣な黒い不活溌な女が動いてゐるのを見た。是が私の中學生以來あこがれてゐた『フワラオーの圖』の第一印象である。
 此の一種失望の感は、曾て希臘のパトラスへ著いて、一旦古への希臘が私から失はれた時と殆ど同じ種類のものであつた
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