少なくない上、こんな處で女の知合はないので、私は意に介せずして居た處、汽車が動いてから、私の車室に這入つて來て私を尋ねる英國婦人があるのに驚いた。是はセイス先生の逗つてゐられる親友クラウヂウス・パシヤ夫人で、此の驛で降りた方が其の家に近いから、先生と二人で態々迎へに來られたのであるが、私を探してゐる中に發車したので、自分丈け汽車に飛び乘つたのであるとのこと。私は此の異域でゆくりなく此の厚意に接して感激する外はなかつた。
 ア市の郊外ヂーニヤに於けるパシヤの閑居に、私は此の夕べ、牛津で別れた以來の老先生と手を握り、靜かなる食卓に夫人と三人語り合つて、夜の更くるを知らなかつた喜は何に譬へようか。次の日は先生に案内せられて、博物館を見て後二三の名所を訪ねたが、「ポムペイの圓柱」なる羅馬の遺跡に行つた時、ウロ/\としてゐる一人の若い西洋婦人が居つたが、遂に私共に彼女の「カメラ」で此の柱を背景に寫眞を撮つて呉れと頼むのであつた。安い御用と承諾して、其の代りに私共をも撮つて貰つた。世界七不思議の一であつた名高いフワロスの燈臺は、僅に港口に其の位置を留めてゐるばかり、圖書館の址は何處に尋ぬ可き由もな
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