。既に十餘年の昔語となつたが、如舟博士と滿洲を歩いた時のことである。熊岳城から蘆家屯附近にある漢代頃の貝墓を發掘して、一夜遲くトロに乘つて高梁畠を過ぎ温泉へ出掛けた。十二時過ぎに案内せられる儘、川原の中にあるバラツク造りの湯に這入つた時は、如何にも夢の樣とも言はうか、狐につまゝれた樣とも言ふ可きか。而かも其の湯槽は肥溜でなく靈驗あらたかなる温泉である。但し此の邊には顏の白い狐が化けて出るとは其後聞き及んだことである。併し今は此の温泉の設備もスツカリ變つてしまつたことゝ想像せられる。
湯崗子の温泉へは千山登りの際に一泊した。これは立派な洋館造りの旅館であつたが、湯の色は熊岳城に比してキタない。こゝから一人の支那人を雇ひ、荷馬車に乘つて、ゴロ石の河原通を一人千山へ登つたのは思出深い旅であつた。南畫の山水にも似た山峯には樓閣が點綴せられ、石徑を高く究むれば、寺觀は巖石の頂に現はれると言ふ奇拔な景色を賞し、山上の客舍に蝋燭を點じて、たゞ一人毛布に包まつて眠に就いた時の淋しさ。案内の支那人は遠く去つて寺で宿ると言ふ。若し千山が馬賊の巣窟と、はじめから聞いて居つては此の旅は流石に出來なかつたらう
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