温泉雜記
濱田耕作
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一 希臘テルモピレーの温泉
「旅人よ、ラコニヤ人に告げよ。我等は其の命に從ひて此處に眠れりと」これはスパルタ國王レオニダスが紀元前四八〇年、寡兵を以てマケドニヤの強敵と戰ひ、テルモピレーの險に其の屍を埋めた戰場に立てられた記念の碑銘であつたことは、苟も希臘史を學んだものは記憶するであらう。併し此のテルモピレーが温泉の湧出地であることは、往々にして注意せられないかも知れない。「テルモ」は「熱い」と言ふ義であり、「ピレー」は門の意であれば、テルモピレーは即ち熱門とも譯す可きで、オエタの山がマリオコス灣に逼つて、ロクリスからテスサリヤに入る道が丁度此のテルモピレーの險阻を過ぎるのである。レオニダスの時より二千五百年の星霜を經て、桑田碧海の變と言ふ程では無いが、地形の變化は此のテルモピレーも埋められ、嶮崖は海岸線から稍々遠く距つて、
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