並べてあるが、浴場址は長方形で、之に附屬した小さい浴場が見られる。浴場の二階で數々の羅馬皇帝の胸像の並んでゐるのを見ながら、一杯の茶をすゝつたのは、私のバースに於ける唯一の贅澤であつた。故原博士は此のバースに滯在中のセイス老先生を訪ねられたと言ふことであるが、心ゆく友と長閑な日を悠々と此處に暮して、羅馬の遺物を訪ひ、靈泉に浴したならば、之に越したる好い土地は英國でも少からう。

          四 朝鮮龍岡の温井里

 話は飛んで朝鮮の温泉となる。南鮮には東莱の温泉があり、北鮮には近頃繁昌しつゝある沙里院附近の温泉があるさうだが、私の知つて居るのはたゞ平南龍岡温井里温泉丈けである。併し此の温泉ほど物淋しい田舍びた、而して氣持のよい處は他にあるまいと思ふ。
 數年前又た再び來ることは無からうと別を惜んだ此の温泉に、私は今年の四月ゆくりなくも再び訪ねる機會を得たのは嬉しいことであつた。眞池洞から龍岡を經て、※[#「禾+占」、178−10]蝉縣の古碑を横ぎりながら温井里に着いたのは、暮色蒼然たる頃であつた。浴客の姿も見ない廣々とした浴場に、下婢も居ず、主婦に背中を流してもらへば、客足の少
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