わら》の、どこからか尿のしみ出す編目に埋めた
崩れそうな頬の
塗薬《とやく》と、分泌物《ぶんぴぶつ》と、血と、焼け灰のぬらつく死に貌《がお》のかげで
や、や、
うごいた眼が、ほろりと透明な液をこぼし
めくれた唇で
血泡《けっほう》の歯が
おれの名を、噛むように呼んでいる。
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倉庫の記録
その日
いちめん蓮の葉が馬蹄型《ばていがた》に焼けた蓮畑の中の、そこは陸軍被服廠倉庫の二階。高い格子窓だけのうす暗いコンクリートの床。そのうえに軍用毛布を一枚敷いて、逃げて来た者たちが向きむきに横たわっている。みんなかろうじてズロースやモンペの切れはしを腰にまとった裸体。
足のふみ場もなくころがっているのはおおかた疎開家屋《そかいかおく》の跡片付に出ていた女学校の下級生だが、顔から全身へかけての火傷や、赤チン、凝血《ぎょうけつ》、油薬《ゆやく》、繃帯《ほうたい》などのために汚穢《おわい》な変貌をしてもの乞の老婆の群のよう。
壁ぎわや太い柱の陰に桶《おけ》や馬穴《ばけつ》が汚物をいっぱい溜め、そこらに糞便をながし、骨を刺す異臭のなか
「助けて おとうちゃん たすけて
「み
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