で炎えるじゅくじゅくと腐った肉塊
もげ落ちたにんげんの印形《いんぎょう》
コンクリートの床にガックリ転がったまま
なにかの力で圧しつけられてこゆるぎもしないその
蒼《あお》ぶくれてぶよつく重いまるみの物体は
亀裂《きれつ》した肉のあいだからしろい光りだけを移動させ
おれのゆく一歩一歩をみつめている。
俺の背中を肩を腕をべったりとひっついて離れぬ眼。
なぜそんなに視《み》るのだ
あとからあとから追っかけまわりからかこんで、ほそくしろい視線を射かける
眼、め、メ、
あんなにとおい正面から、あの暗い陰から、この足もとからも
あ、あ、あ
ともかく額が皮膚をつけ鼻がまっすぐ隆起し
服を着けて立った俺という人間があるいてゆくのを
じいっと、さしつらぬいてはなれぬ眼。
熱気のつたわる床《ゆか》から
息づまる壁から、がらんどうの天井《てんじょう》を支える頑丈な柱の角から
現れ、あらわれ、消えることのない眼。
ああ、けさはまだ俺の妹だった人間のひとりをさがして
この闇に踏みこんだおれの背中から胸へ、腋《わき》から肩へ
べたべた貼りついて永劫《えいごう》きえぬ
眼!
コンクリートの上の、筵《むしろ》の藁《
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