し這い出し
この草地にたどりついて
ちりちりのラカン頭を苦悶《くもん》の埃《ほこり》に埋める

何故こんな目に遭《あ》わねばならぬのか
なぜこんなめにあわねばならぬのか
何の為に
なんのために
そしてあなたたちは
すでに自分がどんなすがたで
にんげんから遠いものにされはてて
しまっているかを知らない

ただ思っている
あなたたちはおもっている
今朝がたまでの父を母を弟を妹を
(いま逢ったってたれがあなたとしりえよう)
そして眠り起きごはんをたべた家のことを
(一瞬に垣根の花はちぎれいまは灰の跡さえわからない)

おもっているおもっている
つぎつぎと動かなくなる同類のあいだにはさまって
おもっている
かつて娘だった
にんげんのむすめだった日を
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  眼

みしらぬ貌《かお》がこっちを視《み》ている
いつの世の
いつの時かわからぬ暗い倉庫のなか
歪《ゆが》んだ格子窓から、夜でもない昼でもないひかりが落ち
るいるいと重ったかつて顔だった貌。あたまの前側だった貌。
にんげんの頂部《ちょうぶ》にあって生活のよろこびやかなしみを
ゆらめく水のように映していたかお。
ああ、今は眼だけ
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