閃光の爆幕に突きあたり
もう一度
燃尽《しょうじん》する
巨大な崩壊を潜《くぐ》りこえた本能が
手脚の浮動にちぎれ
河中に転落する黒焦《くろこげ》の梁木《はりぎ》に
ゆらめく生の残像
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(嬰児《えいじ》と共の 妻のほほえみ
透明な産室の 窓ぎわの朝餉《あさげ》)
[#ここで字下げ終わり]
そして
硝子にえぐられた双眼が
血膿《ちうみ》と泥と
雲煙の裂け間
山上の
暮映《ぼえい》を溜《た》め
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仮繃帯所にて
あなたたち
泣いても涙のでどころのない
わめいても言葉になる唇のない
もがこうにもつかむ手指の皮膚のない
あなたたち
血とあぶら汗と淋巴液《リンパえき》とにまみれた四肢《しし》をばたつかせ
糸のように塞《ふさ》いだ眼をしろく光らせ
あおぶくれた腹にわずかに下着のゴム紐だけをとどめ
恥しいところさえはじることをできなくさせられたあなたたちが
ああみんなさきほどまでは愛らしい
女学生だったことを
たれがほんとうと思えよう
焼け爛《ただ》れたヒロシマの
うす暗くゆらめく焔のなかから
あなたでなくなったあなたたちが
つぎつぎととび出
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