皮膚 妻の禿頭 子の斑点 おお生きている原子族
人間ならぬ人間
ぼくらは大洋の涯《はて》 環礁《かんしょう》での実験にも飛び上がる
造られる爆弾はひとつ宛《ずつ》 黒い落下傘でぼくらの坩堝《るつぼ》に吊りさげられる
舌をもたぬ炎の踊り
肺のない舌のよじれ
歯が唇に突き刺り 唇が火の液体を噴き
声のない炎がつぎつぎと世界に拡がる
ロンドンの中に燃えさかるヒロシマ
ニューヨークの中に爆発するヒロシマ
モスクワの中に透きとおって灼熱するヒロシマ
世界に瀰漫《びまん》する声のない踊り 姿態の憤怒
ぼくらはもうぼくら自体 景観を焼きつくす炎
森林のように 火泥《かでい》のように
地球を蔽いつくす炎だ 熱だ
そして更に煉られる原子爆殺のたくらみを
圧殺する火塊《かかい》だ 狂気だ
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呼びかけ
いまでもおそくはない
あなたのほんとうの力をふるい起すのはおそくはない
あの日、網膜を灼く閃光につらぬかれた心の傷手から
したたりやまぬ涙をあなたがもつなら
いまもその裂目から どくどくと戦争を呪う血膿《ちうみ》をしたたらせる
ひろしまの体臭をあなたがもつな
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