《せきと》めては放出する
煙突の火の中に崩れ 火焔に隠れる駅の大時計
突端の防波堤の環に 火を積んで出入りする船 急に吐く音のない 炎の汽笛
列車が一散に曳きずってゆくものも カバーをかけた火の包茎《ほうけい》
女はまたぐらに火の膿《うみ》を溜め 異人が立止ってライターの火をふり撒《ま》くと
われがちにひろう黒服の乞食ども
ああ あそこでモクひろいのつかんだ煙草はまだ火をつけている

ぼくらはいつも炎の景観に棲《す》む
この炎は消えることがない
この炎は熄《や》むことがない
そしてぼくらも もう炎でないと誰がいえよう

夜の満都の灯 明滅するネオンの燠《おき》のうえ トンネルのような闇空に
かたまってゆらめく炎の気配 犇《ひし》めく異形《いぎょう》の兄弟
ああ足だけの足 手だけの手 それぞれに炎がなめずる傷口をあけ
最後に脳が亀裂し 銀河は燃え
崩れる
炎の薔薇《ばら》 あおい火粉
疾風の渦巻き
一せいに声をあげる闇
怨恨 悔 憤怒 呪詛 憎悪 哀願 号泣
すべての呻きが地を搏《う》ってゆらめきあがる空
ぼくらのなかのぼくら もう一人のぼく 焼け爛《ただ》れたぼくの体臭
きみのめくれた
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