太股に崩れる痣《あざ》をかくさぬ
ひろしまよ
原爆が不毛の隆起を遺《のこ》すおまえの夜
女は孕むことを忘れ
おれの精虫は尻尾を喪《うしな》い
ひろしまの中の煌《きら》めく租借地
比治山公園の樹影にみごもる
原爆傷害調査委員会のアーチの灯が
離胎《りたい》する高級車のテールライトに
ニューメキシコ沙漠の土民音楽がにじむ
夜霧よ
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(彼方河岸の窓の額縁《がくぶち》に
のびあがって 花片を脱ぎ
しべをむしり
猫族のおんなは
ここでも夜のなりわいに入る)
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眼帯をかけた列車を憩わせる駅の屋上で
移り気な電光ニュースは
今宵も盲目文字を綴《つづ》り
第二、第三、第百番めの原爆実験をしらせる
どこからかぽたぽたと血をしたたらせながら
酔っぱらいがよろめき降る
河岸の暗がり
揺れきしむボート
その中から
つと身を起すひょろ長い兵士
屑鉄|漁《あさ》りの足跡をかくし
夜汐は海からしのび寄せる
蛾《が》のように黝《うすぐろ》く
羽ばたきだけで空をよぎるものもあって
夜より明け方へ
あけがたより夜の闇へ
遠く吊された灯
墜ちようとしてひっかかった灯
お
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