せてミシンの上にうつぶせる妻はゆめみる
蟹《かに》の脚のようなひきつりを両腕にかくして切符を切る娘もゆめみる
ガラスの破片を頚《くび》に埋めたままの燐寸《マッチ》売りの子もゆめみる、
癧青《れきせい》ウラン、カルノ鉱からぬき出された白光の原素が
無限に裂けてゆくちからのなかで
飢えた沙漠がなみうつ沃野《よくや》にかえられ
くだかれた山裾を輝く運河が通い
人工の太陽のもと 極北の不毛の地にも
きららかな黄金の都市がつくられるのをゆめみる、
働くものの憩いの葉かげに祝祭の旗がゆれ
ひろしまの伝説がやさしい唇に語られるのをゆめみる、
噴火する地脈 震動する地殻のちからを殺戮《さつりく》にしか使いえぬ
にんげんの皮をかぶった豚どもが
子供たちの絵物語りにだけのこって
火薬の一千万倍 一グラム一〇、〇〇〇、〇〇〇のエネルギーが
原子のなかから人民の腕に解き放たれ
じんみんのへいわのなかで
豊饒《ほうじょう》な科学のみのりが
たわわな葡萄《ぶどう》の房のように
露にぬれて
抱きとられる
朝を
ゆめみる
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微笑
あのとき あなたは 微笑した
あの朝
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