はダイスをころがしながら口笛をふいておりました。
「口笛、お止しなさい」
私は、少しきつく云いました。信二郎は、素直にやめました。そうして、
「姉様、父様は死んだ。僕は生きる。父様の行き方を僕はならわない」
と、むっつりした顔で云いました。
「信二郎さん生きるのよ。でも、父様の選んだ道はあれでまたいいの。軽蔑出来ないの、若し、あなたが自殺したなら私はゆるせない。父様がお死にになったのは、いいのよ。いいのよ」
私は、ふと兄の事を思い出しました。兄にしらせねばなりません。お体にさわるといけないけれど、とにかく後継者なんだからお呼びせにゃならないし、そのことを、母と叔母とに相談しました。
「信二郎を呼びにやりましょう。唯、御病気がひどくなって、とうとう駄目だったことにして」
結論はそういうことになって、信二郎は、しぶしぶ病院へ行きました。人が多勢、入れかわり立ち代りにやって来ます。その接待をしながら、私は父の死を感じないのです。白い絹でふとんを作りながら、私は、それが、父の体をつつみ、木の箱の中におさまり、やかれるのだとは思えません。昔長く家にいた女中が、午後来てくれて、私はすっかり
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