にすぎないのでした。意見のちがいだけではありません。生きるということからしてちがう意味でちがう方法であったようです。
「父様は食べないでも食べた風をよそおう人なのよ。お金がなくともあるようにみせる方なのよ。貴族趣味なのね」
私はよくそう申しました。父には、そういう孤りで高い所にいるといった誇のようなものがありました。でも、父と私と一つだけ、ほんのわずか愛し合うことの出来る時がありました。絵を描いている時と、陶器を愛玩する時でありました。私と父は無言で喜びをわかちあうのでした。展覧会に行って私達は二人の世界を見つけておりました。一つの筆洗が二つの絵をそれぞれつくり上げる時に、私達だけの安息場所を感じていたのです。母もはいることの出来ないところでした。一つの仲介物があって、それが父と私を和合させていたと云えましょうか。
私は父の机のところに行きました。この間少し気分のよい時に、私にまとめさせた句集がありました。
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いつまでの吾が命かやほたる飛ぶ
[#ここで字下げ終わり]
句集を何げなく開いたところにこの夏の作がありました。私は信二郎の部屋へ行きました。信二郎
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