した。
父は孤独な変人でした。人から愛されない人でした。友人を一人も持っておらず、順調に育ったであろう筈の父は、妙に意地けて、ゆがんだ性質でした。若い頃、マルキシズムにはしったこともあったそうです。そんな父が、たった一つの憩いの場所の家庭に於いて親しもうとしながら、かえって子供から、はなれられたことは、父の最も不幸なことだったかも知れません。でもこれは子供達の罪ではありません。父の性格と時代のへだたりのせいでした。父は自分から孤独のからの中にはいっておりました。父は又、恋愛などは罪悪のように考えていたようでした。母との結婚は勿論親から決められた平凡な御見合結婚でしたし、私の記憶上、父が女の人の名前すら云ったことはないようでした。私達が、冗談半分に、どこの奥さんが美しいとか、誰の型《タイプ》は好きだとか話しますと、大変嫌な顔をいたしましたし、新聞などの情事事件をあれこれ批評することも、父の前では出来ませんでした。私達子供が成長するにつれ、父との距離はどんどん遠くなって行くのでした。母はと申しますと、父よりも神様、なんでもすべて神様でした。私達は肉体的にのみ親子であって、同じ姓を名乗る人
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