を呼びました。母に電話をかけました。とにかく、すぐに帰えるようにとのみ伝えたのでした。私は何をすればよいのやら唯茫然としたまま父の顔をみつめております。けれど、悲しいとか、お気の毒だとかいう感情はちっとも湧いて来ません。信二郎は父の机の抽出しをゴソゴソかきまわして何もないというなり部屋へはいってしまいました。父は、嗅薬を飲んだのでしょうか、その劇薬が、からになっており、コップに水が半分のこっておりました。昨夜、少しの呻吟もきこえなかったことが私には不思議に思えました。あの目がさめて起き上った時は、もうすでに死んでいたのでしょうか。父の死が、本当だろうかと疑う気持さえ起りました。叔母が、湯を沸して持って来ました。母が帰りました。私も手伝って、死体の処置をいたしました。母は口の中で神勅をとなえながら泣いております。春彦を呼びにやって近所の心やすい医者がまいりました。私は父の死の動機が、病苦からか、神経衰弱がこうじたからか、或いは虚無か、貴族の誇のためなのか、考えてみようと致しました。が、すぐに、どうでもいいじゃないか、という気持になって、一人自分の部屋へはいって昔の父のことを回想しはじめま
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