の裏口にも声をかけました。いくらかずつの口銭で、煙草やコーヒをのみました。雑誌や骨董品を買いました。自分のことだけで生きてゆけばいいのですから、家のことなんか考えなくともと思います。その夜は、久しぶりに信二郎とダイスをして遊びました。
あくるあさ。
私は、東さんの所から来た使いの人に品物を渡し、現金を受け取って父のまくら許に置き、銀器をうるために出かけました。二十三円五十銭で全部を堀川さんに買いとってもらいました。三万六千円とわずかでした。菊の御紋章入りのさかずきは何故か特別、光りがよいようでした。銀の肌に私の顔がうつります。はっと息をふきかけるとその顔はきえます。他愛のない仕草をくりかえしていると、堀川の主人がそれをみて笑いました。桐の箱の紫の紐が、かるくひっぱったのにぷつりときれました。きれっぱしの紐を、お金と一しょに私は大事に風呂敷にしまいこんでかえりました。家へ着くと、叔母が飛んで出て来ました。
「父様がおわるいのよ、でね、大阪の野中先生を呼んで来てほしいんですって」
父の居間へはいると一種の臭いが致しました。喘息がひどくなると、この嫌な臭いがするのです。母は背中をさす
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