「本当ね。でも勉強のものだけは十分にしてあげたいわね。雪子にも、たんす一本、買ってやれなくて……」
私は苦笑しました。そして襖越しに声をかけました。
「母様、お金はふって来ませんよ。すわってて待ってたって駄目よ。何かやらなければ……、売喰いはもう底がみえているし」
「商売でもやるの、出来ませんよ。商売人でない我々がやったら結局損をしてしまうんですよ」
「だって、じゃあ一体、これからどうするつもりなの、何もやらないとしたら、いつまで続くとお思いになるの」
「税金のこともあるんだし、まあ、神様におまかせしてあるんですから。昔、あまりぜいたくした罰だと思わなきゃ。もう少し、辛抱していたら又、神様がお援け下さいます」
私は云っても無駄だと思いました。父と母とには見栄があるのです。なまじっか商いでもやろうものなら、すぐにこの街中噂がたちます。それは恥だというのです。私が勤めに出たいと云ってもゆるされません。何分世間体があるからというのです。だから、私は今迄、内緒にいろんなことをしてお金を得ました。飴屋もしました。石けん屋もしました。佃煮屋もしました。知合から知合の紹介をもらったり、見知らぬ人
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