行きました。
 叔母がはいって来て、宝くじが全部駄目だったと告げました。
「雪ちゃんに、ホテル約束したのにね、ワンコースを。駄目だった。来月はあたってみせるわ」
 つぎだらけのスカートをはいた叔母は、大きな声で笑いながらそう云いました。
「おばさま、毎月毎月買う分、計算したらずいぶんのマイナスでしょう」
「そうなのよ。でもやめられないわ」
 二人は又笑いました。
「まだまだ、貧乏と云っても私達はぜいたくかも知れないわ。おばさん、今夜は牛肉よ。宝くじにあたらなかった残念会にしようか」
 叔母は、せかせかと茶室の方へゆきました。渡り廊下の戸がパタンといって冷い風がはいって来ました。
「もう、湯たんぽがいるわよ」
 私はガラクタ入れの中から湯たんぽを出して来ました。ほこりをはらって水をいれるとそれはジャージャーもって使えないようになっておりました。
 その晩、私は自分の部屋にいて、雑誌をよんでおりました。母と叔母とは、隣の部屋で編物をしておりました。二人の会話がきこえて来ます。
「お義姉様。春彦の本代が随分いりますのよ。科学の材料費なんかも。ノートや鉛筆やそんなものも馬鹿になりませんわね」

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