「あなたきょう、学校へ行かなかったのね、大学だからいいのかも知れないけれど」
 とやさしく問いました。信二郎はだまっております。
「街であなたをみかけたの、一人じゃなかったわ、お友達とでもなかったわ」
 何か云おうとするのをさえぎって私は更に、
「何もききたくないし、云いたくもない、でもそのことから……、やっぱりバンドはよしましょう。姉様、何とかして本代位、こしらえてあげます。姉様はあなたにしかる資格はないかもしれない、けれどあなたの将来を案じてるの、偉そうなこと云ってって、あなたはおこるでしょうけど……」
 と云いました。
「何も姉様に対しておこらない。だけど、僕は僕勝手に生きるんだ。バンドのことはよすもよさないも駄目になっちゃったんだ」
「今日の、どこかの奥様なんでしょう。どんなお交際なの」
「どんなでもいい、どんなでもいい。姉様あっちへ行って。僕を一人にしておいて下さい」
 私は立ち上りました。そして自分の部屋へはいると急に信二郎がかわいそうになって来ました。どんな風に生きるのか、私はやっぱり黙っているのがいいのでしょうか。信二郎は信二郎。私は私。私は私しか導くことも出来ない
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