して無礼だとは思わないわよ。それで御葬式してあげられたらいいじゃないの」
父はにがい顔をして黙っております。叔母がとんきょうな声を出しました。
「だって、誰が抜くのよ」
「誰か、歯医者さんにでも」と私。父がその時はじめて口をひらきました。
「いやな話、もうよしたまえ、お前達は父さんが死んだら、たくさん金歯があるから、それでうんと食べるんだね」
私は笑いながら云いました。
「雪子が死んだってあてはずれよ。金歯なんて一本もないわよ。人間の価値少しさがったわね。でも生きているうちはない方がよさそうね」
話はそこでぷっつり絶えてしまいました。
食後、私は信二郎の部屋へ行きました。勉強しているのかと思ったらごろんと横になって煙草をふかしております。
「勉強なさいよ。何してるの、時間が無駄よ」
「考えてるんだ、無駄じゃない」
「何を御思索ですか、紫の煙の中に何がみえるのでしょう」
私は茶化すように申しました。
「ほっといてくれよ、うるさいね」
信二郎はおこったような顔をし、私の方へ背中をむけました。私はその傍へすわってしばらくの間、じゅうたんの破れ目から糸をひっぱったりしておりましたが
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