ある。丁度、五月頃書いた戯曲がきっかけで、神戸に演劇研究所なるものが誕生し、私は別に、大した興味もなかったのだが、ずるずるひきこまれて、恢復した途端から、いそがしく動きまわらねばならない状態になった。病気中に作曲を志し、それにも夢中になりかけたが、もともと根気のない私は、ハーモニーというむつかしい問題で作曲を断念した。久坂葉子は、病気以後、わずかに活躍した。詩の朗読会なるものをおっぱじめ、それは、失敗に終ったけれど、一カ月の間はいそがしく専念した。さて、VILLONの、「華々しき瞬間」、の問題にかえろう。この小説が、確かに、久坂葉子を死亡させなければならないと強いたのである。多くの人の批評(酷評)がこたえて私は、小説を書くことを断念しようと思ったのではない。私は、大へんな苦しみでこの作品を書きあげたことが馬鹿々々しくなったのである。たしかに、白紙の原稿用紙にむかう時は、書かなければおさまらない衝動にかられる。短いものを、一息に、その衝動の引力でもって書いてしまうこともある。今迄、私の多くの作品は、そんな状態でうまれた。安産であった。出来たての子が阿呆にしろ善人にしろ安産であった。しかし
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