久坂葉子の誕生と死亡
久坂葉子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)媾曳《あいびき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]〈昭和二十七年十一月〉
−−
今からざっと三年半前、一九四九年の夏前に、久坂葉子は、この世に存在しはじめた。人間の誕生は、偶然に無意識のうちに、それでいておごそかに行われるものだと思う。しかし、この名前は、自分の意識的な行為によって名附けられ、誕生を強いたのであった。この名を、原稿用紙の片隅に記した時は、私一人しか認めることの出来ない名前であったのだから、確かに、この世に存在し得たものではなかった。誰かが認めなければ、その物体の存在価値など、零であるのだ。
その時、雨が降っていたように思う。私は女学校の時の友人につれられて、島尾敏雄氏の六甲の家を訪問した。それ以前から、私は小説を書いたり詩をノートのはしくれに鉛筆書きしたりしていて、ほんの少し、文学らしいものへの動きは、周囲の人達に感づかれていたのだ。父が俳句をやっていた影響で、登水という号を父からもらい、句会に列席したことなどあるが、そ
次へ
全16ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久坂 葉子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング