、「華々しき瞬間」に於いては、すこぶる難産であったのだ。難産して生まれたものは、大きなあやまちのしろ物であったのだ。どうして、苦しんでまでして書かなきゃならないのか、もう私は意地をはるのをよそう。私はこの道に才能がないことをはっきり知ったようだ。どんなに苦心をして作ったものでも、その作品が駄目な場合、その苦心は無駄骨折なんだ。だから、苦心作だとか力作だとか云われるのは、ひょっとしたら、侮辱されているのかも知れない、と考えたのだ。しかし、私の勝気さは、華々しきを発表した後にうけたショックで、すぐに書くことをよさなかった。そして、「孕む」という小説をかきはじめた。二三行。もうその先が出て来ないのだ。何度も二三行、がくりかえされた。かつて、書きかけの原稿をまるめてしまうという経験のない私であったのだ。それなのに書けない。何故苦しんでまで、原稿用紙に字をうずめねばならないのか、と頭の方で手に疑問をもちかけるのだ。それが五日つづいた。私は、決心した。久坂葉子を葬ろう。私は、小さな白木の箱をつくり、白布で掩い、勿論その中は久坂葉子の名前のあるすべての紙片をつめこむのだ。そして、焼こう。線香をたてよ
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