はかった。蘇生した。その揚句、肺病になったのである。肺病は半年間の療養を宣言された。最初肋膜をわずらい、二週間絶対安静、一カ月安静を強いられた。だが、私は煙草を吸い、読書をし、ペンをもとった。「華々しき瞬間」は、ふとんの上でかかれたのである。たん壺を傍に、体温計を枕許に、そして、三時間毎に熱をはかりながら、ものすごいスピードで書きはじめた。書く前に、私は、ボーヴォワールの「招かれた女」をよんでいた。彼女の小説はある意味で私の創作の方向をかためてくれたようにも思われた。一つの存在の価値は、他の存在によってはじめて認められるのだということを、私は「華々しき瞬間」に於いて試みたのだ。勿論、そればかりではない。誰でももっている、相反した感情の動きを、とらえてみようとした。百五十枚の原稿を、私はすぐに富士氏の許へ送った。その返事はボロクソだったのだ。それでも私はくじけず、書きなおしてみた。それがVILLON第一号に掲載されたのだ。その後、私はよく書きまくった。そしてVIKINGにも復帰し、古い原稿を整理しては発表して行った。あらたに、二百枚近くの小説も書いた。そのうち、病気はなおってしまったので
前へ 次へ
全16ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久坂 葉子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング