ろで何にもなりますまい。自分の悪い行為を人に告げてその苦しみが軽くなるようには私には思えません。しかもです、あなたは、たかが音楽教師にすぎないじゃありませんか」
私はそんなことを長々と喋ったように思われる。彼はピリピリと眉を動かし他の教場にまできこえる位の大声で私をののしった。私はかっとなってますます反対を押し通しだした。他の級友の中で、二三人が私を支持した。
「日記は人にみせるものではありません」
私へ毎日手紙をくれる瞳の大きい背の低い子がそう云った。他の大勢は半ば彼をおそれ半ばこの事件に時間がつぶれることを喜ぶような表情で私と教師の顔を見比べていた。私は自分の熱い頬に涙が垂れるのを知った。これは少女的な興奮の涙であった。
「悪趣味ですね、人の悪なる行為をききたいとは……」
私はへんな笑いを浮ばせながら、涙声で云った。私は自分の罪をふっと目の前に浮ばせた。窃盗。カンニング。偽った行動や言葉。私は椅子にどっかり腰をおろした。
「先生。今あなたの満足がゆくように、私が従順に書いたとすれば、答案紙をひろげたあなたは驚愕と恐怖とそして後悔、そうです。あなたは自分の行為に後悔してしまう。
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