私は彼が黒板に、善悪や意識だとか行動だとかいう文字をかき、それを説明するのをノートにとるのさえ馬鹿げているような気がして、いつも他のことを考えていた。その日もぼんやりしていると、突然、これから二十分間に自己の行為を反省し、善悪を理性で判断し、悪だと思った点を紙に書いて提供せよ。それを倫理の試験の代りにすると云ったらしい。紙がくばられた。私は隣の生徒に何事だと問うた。彼女は彼の云った言葉を忠実に私に伝えた。私は立ち上った。私は立てつづけにべらべらと喋った。私は絶対に嫌だと何度も云ったのだ。生徒はざわついた。彼は渋い顔をした。
「何のためにそんなことをするんですか」
彼は自己反省は大切なことである、と簡単に云った。私は反省は自分だけでやるものだと云い張った。そしてそれを試験がわりにするなどもっての他だと云った。私の言葉に、彼は更に怒号し、命令だと云った。私はどうしても受け入れないとつっぱった。そして最後には、
「失礼ですが、懺悔僧でもないあなたが、四五十人もの生徒の懺悔をききただしてその負担がどんなに大きいかお気附きじゃありませんか。私は自分の行為は自分で処理します。あなたに告白したとこ
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