したくなる私とは気持の上でも合う筈がなかった。姉はすぐに計算し、計算の上で行動した。私は無鉄砲向う見ずに気分のままで行動した。そしてお互に衝突しながら、衝突した途端に自分をひきさげ、奥までつっこんで行こうとはしなかった。姉もエゴイストであり私もエゴイストであった。
 家庭内の不和を私はかの女の教師に告げて、自分の位置をどうすればよいのか相談した。彼女は常識的に親の意見に従うべきだといつも云った。私は腹立しく思ったが、別に彼女と喧嘩はしなかった。
 そのうちに、学校で私にとって大きな問題が勃発した。一学期の終り近い倫理の時間であった。教師払底の時で、倫理を教える人は教頭という名目だけの凡そ倫理とかけはなれている音楽の教師であった。私は彼を心から軽蔑していた。というのは音楽をやりながら音楽的な感覚を持たない人であったから。彼はピアノをガンガン鳴らした。まるでタイプライターを打っているようだった。又彼のタクトはメトロノームと寸分の変りなく、拍子だけでその中に感情は全くはいっていなかった。その人が、勤続十何年のために教頭の位置にあり、倫理――公民と呼ぶ時間――を教えるのは全く滑稽であった。
 
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