灰色の記憶
久坂葉子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)襁褓《おむつ》は

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十五六|糎《センチ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]し方は
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     プロローグ

 私は、いろんなものを持っている。
 そのいろんなものは、私を苦しめるために活躍した。私の眼は、世間や自然をみて、私をかなしませた。私の手足も徒労にすぎないことばかりを行って、私をがっかりさせた。考えるという働きも、私を恐怖の淵につれてゆき、さかんに燃えたり、或いは、静寂になったりする感情も、私をつかれさせただけである。
 しかし、その中でたった一つ、私は忘却というものが、私を苦しめないでいたことに気がついた。忘却が私を生かしてくれていたのだ。そして私は、まがりくねった道を、ある時は、向う見ずにつっ走り、ある時は、うつむきながらとぼとぼあるいて来た。それなのに、突
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