えず自分をポーズさせて本当のことは云わなかった。いり豆の鑵をそばに置いて、寝ころびながらsexの話に戦争も時代も忘却したこともある。これは悲しい話であった。何故なら、男性への接近は絶対に遮断されていたゆがめられた青春であったから、胸の中に燃え立つもののはけ口がなかったのだ。焼けっ原を見降しながら、山崖の草いきれの中で私達はゆめをみた。現実とは凡そかけはなれたものでしかなかった。日がくれると、私は仮屋へ戻った。計量機の上へ丼をのせ、ほとんど豆ばかりの御飯をついで、大勢の家族はいそいで食べた。日曜日は家の焼跡の整理をした。金庫の中の真珠はすっかり変色してしまっていた。ダイヤやプラチナはぜんぶ政府に提供していたから、真珠位が宝飾品として手許にのこっていたのに、それももう使うことも売ることも出来なくなっていた。父の大事にしていた陶器類は、二三無事であったが、それも、水をいれればもってしまう花瓶や茶碗であった。私の絵の印は、二三コ汚れたまま土の中から出て来た。それは喜ばしい発見であった。絵をかくことをはじめた。それから大勢の家族で句会もはじめた。梅雨の時分の毎夜であった。しかし又、二カ月して八月
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