電車で四五十分はなれた田舎にいる祖母のところへ、その朝から歩いて昼すぎにやっとたどりついた。母と私はトラックにのって夕刻又神戸へ引かえした。焼土はまだくすぼっていた。父は執事や叔父達と其処で後始末の打合せをしていた。金庫が一つ横だおれになっていた。ピアノの鉄の棒が、ぐんにゃりまがって細い鉄線がぶつぶつ切れになっていたし、電蓄も、電蓄だと解らぬ位に残骸のみにくさを呈していた。本の頁が、風がふく毎に、ばらばらくずれて行った。私は何の感傷もなくそれ等の物体の不完全燃焼を眺めた。その日から、本家の邸に移り住むことになった。郊外の堂々とした石壁の家であり、本家の伯父は、祖母の疎開先へいれ代りに移った。
 そこで私達は、父の妹の未亡人と、その娘、息子と、遠い親類の焼出され家族七人と、混雑した生活を送るようになった。
 朝弁当を持って出ると、級友の罹災調べや、学校との連絡や、もうすっかりやけた工場は自然立消えになっていたので、その時の給料の配布や、日中はそんなことをしていそがしい時を送った。用務以外の時は、友達と話ばかりをしていた。親しい友達といっても、心の底から打ちとけて喋ることの出来ない私は、絶
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