手であった。
彼女は学期の終りに、辞職の挨拶をして九州へかえって行った。
学期があらたまると殊更私はいそがしくなった。そのまま幹事を任命され、いよいよ工場へ出陣することとなった。誓書、といういさましい文章を講堂でよみあげた。とにかくいそがしいことが、私の自分勝手ななやみのはけ口にもなり、自然、なやみもわすれてしまうようにもなったのではあったが、度々神戸も空襲され、すぐ近所まで焼け跡になり、死傷者が続出すると、私の心の隅に、ふたたび死ということが、鮮明に刻みこまれるようになった。私は真白の数珠を右腕につけた。死がおそろしいのではなかった。死を常に意識するようになり生きているということに何らかの意味を持たせたいと思った。私はこの頃、自分は罪を犯したものである、と思うようになった。それは瑣細な罪であったかも知れないが、小さな胸にはそれだけのことでも大きな負担であったのだ。私は、自分を罰さなければならないと思った。そして、死の後の世界をはっきりと感じるようになった。私には、地獄極楽があるということは人間にとって大へんな不幸だと思った。生きている間、悪事を働いても、死んでから位、苦しみたくな
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