いる、第4水準2−13−28]し方は乱暴で、三本の梅の枝がつったっていた。私は苦笑した。彼女は旅行記念の手帖をみせてくれた。俳句や和歌や淡墨の絵があった。ひるまで、私と彼女は絵をかいた。彼女は般若の面を荒々しく画いて私にくれた。私は観音のプロフィールと梅の木とを、半折に配置してやはり墨だけでかき、彼女に捧げた。
「うれしいね。私は……。私、学年があらたまると故郷へかえるの、時々眺めてあなたを思い出すの」
 私は、ぜひ神戸に居てほしいとは懇願しかねた。彼女はやはり肉親の許へ帰るのが当然であり、私がひきとめても仕方ないことであった。それに、教師は教授するのではなく、共に工場で働くためのものでしかなかったからだ。
「私、神や仏を信じてない。私、自分を信じているの」
 近くの山へ散歩した時、ふっと彼女はそう云った。
「唯、寺や仏像が好きだけ。あなた、仏教信者? 教員室で噂きいた。……」
「何もかもわからなくなってしまって……わからないままにかえって強くなったみたい。わたし、数珠を捨てたの……」
「自信を持つことね。自信をもつことよね」
 彼女は私の手をにぎりしめた。それはごつごつした男のような
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