にしたり、肩のへんでゆらゆらさせることが面倒で、朝起きても櫛を使うことは滅多になかった。ガシャッと大きなピン一つでとめて、後からみればまるで嵐が起っているように見えるらしかった。
もんぺをはいて防空鞄をさげ、防空頭巾やゲートルや三角巾や乾飯をその中へつめて毎日持ち歩いた。未だ国土来襲は殆どなく、夏の間は、近くの海岸へ泳ぎに行ったり山登りをしたりすることが出来た。顔や手足は真黒になり、私の身体は健康であったけれど、秋になる頃から、私の持続していた南無阿弥陀仏の信仰があまりにもたやすすぎ、かえってそれが不安になりはじめた。私はもっと苦しまねばならない、もっとこらしめを受けねば救われないと思い始めた。称号を唱えながら唱えている自分がはっきりした存在になり、没我の境地にはいれなくなった。私は私を意識することが、私と仏の距離を遠くした。私は禅の本にふれてみた。菩提寺の和尚に話をきいた。大乗か小乗か、自力か他力か、私はこの岐路で相当考えなおしはじめた。心の平和は失われていた。しかし私の年齢の頭脳で、はっきりした確信をつかむことは不可能であった。私は気分をその迷いの中から他の方向へ転じさせた。絵を
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