働であった。私はよく働いた。名誉ある役目がら、しなければならなかったし、信仰の精神が、働くことの喜びを私に強制したのかもしれない。数珠を右腕にまく私は、教師や生徒から変人あつかいをうけていた。それに私は口のまわりにひげが生え出していた。母は幼い頃から子供の顔をそらないように床屋に命じていたので(私達は月に一回、床屋が出張して来て日のあたるヴェランダで、消毒のにおいのするヴァリカンを首すじにあてられることを習慣としていた)うぶ毛が顔中密生していたのだが、私のは殊に濃く、それが女学校へ入った頃から目立って来ていたのだった。まゆ毛は左右太く大きく真中で堂々と連結しており、上脣のまわりのは波うつ程であったのだ。同級生から笑われた。何故そらないのかと云われた。私は、その理由からも、かわった人だ、と思われた。私はこっそり父の安全カミソリで、眉毛と口のまわりの毛をそり落した。まゆ毛はかたちんばになり、猶更わらわれた。カミソリの効果は逆であり、ますます濃い毛がニョキニョキと生え、私は遂に剃っても剃っても追いつかずに断念してしまう気持になった。そして髪の毛さえ手入れしなくなった。三つ編みにしたり、おさげ
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