ると、隣の彼女と共にそっと机の下へ手を入れて眼鏡をとり出し、しかめ面しながらそれを低い鼻の上へのせた。
 彼女の家は、立派な構えで、庭にテニスコートがあった。私や彼女の兄弟は其処でうまとびをしたり、ボール遊びをした。又、家の中もたくさんの間があり、彼女の部屋は、ほたるの絵の壁紙であった。小さなこけし人形や千代紙や、封筒や便箋を蒐集することが好きであった彼女は、それを少しずつ私にわけてくれた。学校に居ても、私と彼女は大変親しかった。しかしひとたび勉強のことになると、彼女はガリガリ虫で、私に一点負けたと云って口惜しがっていた。尤も、私が一点勝ったということはたった一度であり、常に私は勝を譲歩せねばならない破目にあった。[#「あった。」は底本では「あった」]

 丁度、いよいよ戦争らしい戦争になった頃である。防空頭巾やもんぺを作った。日本は非常な勝ち戦であり、私達は、フィリピンを真赤にぬり、南洋の小さい島まで地図の上に日章旗を記入することを命ぜられた。大詔奉戴日という記念日が毎月一回あり、その日は長い勅語を低頭してうかがった。入試にぜひ暗記せねばならないと云われたが、私は遂に二行位しか覚えら
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