目はよたよた逼いまわっており、間に袋が出来たり襞が出来たりした。糊付けの仕事でも、ふたと身をきっちり合せることが出来なかった。が、それでも、彼女に馬鹿にされないようにと、乳母にこっそり仕立ててもらって学校へ持って行ったりした。
彼女に好意を持ったために、私は時々ほめてもらう位の優秀な学童になったが、一つだけ彼女から面倒なものをもらいうけた。それは、近眼である。授業中に彼女はそっと眼鏡を出して黒板の字を写した。私はそれが羨しくてたまらなかった。飴色の平凡なつるの眼鏡であったが、私はそれを掛ける時の恰好や、少し目を細めて遠方を凝視《みつ》める顔にひどく愛着を抱いた。彼女はノートに字をかく時、うつぶせになっているのかと思う位の姿勢で書いていた。私はそれを無理に真似をし、例の何でも御願いばかりする神様に、眼鏡がかけられますようにと祈ったりした。効果てき面、私は二カ月もたった一学期の終り頃、本ものの近視になってしまった。瞼の上がぷくっととび出し、遠くをみる時は、目と目の間に皺を入れなければならなくなった。私は待望の眼鏡をかってもらった。飴色のあたり前の型の眼鏡で、授業中、先生が黒板に字をかかれ
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