やすみ、朝になるとランドセルの片隅にそれをしまい込んだ。
時々学校で彼に遇い、その度に私はふっとうつむいてしまった。しかし、その感情は長く続かなかった。私達が、螢の光を唄って彼等が卒業してしまい、彼の姿をみつけることが出来なくなると、もう、あの紙片は屑箱の中へほうりこまれ、鉛筆は、使いはたしたか、失ったかしてしまった。すでに私の心の中に彼は住んではおらなかった。
割合によい成績で進級し最上級生になった私は、初めて一しょの級になった首席を通している女の子に好意を持ちはじめた。帰る方向が一しょなので自然親しく口をきくようになり私は彼女の云うことすることを尊敬した。そして彼女と机を並べて勉強するようになった。彼女に近よろうと思うばかりに、よく学んだ。宿題や下しらべもやって来た。だいたい彼女は何でもよく出来たが、特別にずばぬけてよいものを持っては居なかった。細かい字をかちかちノートにかきつめ、地図や理科の絵をきわめて美しくかいていた。又、御裁縫や手工も上手かった。私は縫うことは全くきらいであり完成したものは殆どなかった。人がまっすぐ同じ縫目を連ねてゆくのが不思議にさえ思えた。私が縫うと、針
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