ているところへゆく。漁師が海から帰って来て、獲物のせり市があるのだ。私は生臭いその空気を好んでいた。大きな台があって、其処に、がらがらした声のおっさん達が、竹べらにチョークで何やら記して伏せて置いたり、ひらいたりしている。私は、荒っぽいその中に、びくびく動いているおさかなを、別に同情もしないでみていた。真赤な血が垂れる。自分の爪のような鱗がとぶ。私の殊に好きなさかなは、蛸であった。必ず、その丸く吸いつくところへ手をもってゆき、小さな指で、強くひっぱられることに興味を抱いた。たくさんの穴へ一本一本の指をいちいち吸いつかせる。そうしているうちに、邪魔だとしかられる。しかし太いお腹に毛糸であんだぶあつい腹巻をして、黒い長ぐつをはせた漁師達に、私は肉親以上のしたしみを抱いていた。
毎日、新しいおさかなを、あれがいい、これが好きだと選んで持ってかえる。それが、朝の仕事の一つであった。家へかえると、まめ粥が煮てある。このあたりの風習に従って、小さな豆の実と葉をかげ干しにしたものを、おかゆにまぜて煮くのだということは、後で知ったのであるが、それに、漬物と味噌汁とがきまって出される。小さな茶碗に、風
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