船の絵がついていて、私はそれを大へんかわいがっていた。
 日中、畠でとんぼやかえるをつかまえることもした。指の間に、とんぼの羽をはさんで、両手一ぱいになると空たかく逃がしてやる。そして又くりかえす。勿論、私自身で、とんぼをつかまえることは出来ないから、田舎の少年や、おばさん達にとってもらい、私はわらぞうりをつっかけて、兄達にまじってたんぼ道を歩いた。
 親からはなれて寂しいとは少しも思わなかった。そうした田舎の人達の素朴な感情の中に、私は伸び伸びと育った。
 けれども、教育のためには、田舎の生活はプラスしないという親の意見で、大分、丈夫になった兄と共に、兄弟達は都会へひき戻された。海岸の別荘は、夏間だけ借りることになった。
 両親の許へかえって私は、その日から、厳しい躾を母から与えられた。私は急に臆病になり、怯《い》じけた性格になってしまった。他の兄弟は、割合すぐに都会の空気になじんで御行儀よくなったけれど、私はどうしても田舎の生活がこいしく、人や雑音の多いことが、嫌でたまらないでいた。母は私のイナカモンを恥かしがった。私は幼稚園へゆかされるようになった。大人の先生は母よりも厳しかった
前へ 次へ
全134ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久坂 葉子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング