の両乳の間に顔を押しつけて眠っていた。
その頃、生まれつきよわかった兄のために、紀州の海岸に別荘を借りた。兄、姉、私と、すぐ後に生まれた弟と、乳母と女中が海岸の別荘に生活するようになった。真白で広い浜辺の端に、高い石がけの平家があり、私はそこで波の音を四六時中きいていた。ひる間はその波音が退屈しのぎであり、いろんな夢を思い起させたりしたが、夜中にふと目をさますと、それは恐しい魔物の声のように思えた。そんな時、私はしくしくと泣き出して、乳母の乳房に耳を押しつけた。
こまかい白い砂地は、私を無性によろこばせた。汀をぺたぺた素足で歩く。と、すぐにその足あとは波に消されてしまう。どんなにゆっくり、じわっと足あとをつけても、すぐにそれはあとかたなく波のためにさらわれてしまう。今日こそは、波にさらわれまいとし、その小さな念願をくりかえしながら、次第に汀で遊ぶことが退屈になり、私はお魚や、貝がらをあつめたり、磯の間に、ぶきみな形の小石をひろったりした。それは大切に、廊下に並べられたり、お菓子の空箱にしまいこまれたりした。
毎朝、五時に、ほら貝が鳴る。私達は女中の手にぶらさがって、ほら貝の鳴っ
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