どわかる筈もなかった。――相変らず私は、ある種のスリルを満喫していた。
そのうちに、踊りの稽古が、あまり派手好みでない母に、少々面倒にもなったのか、姉の脚も、すっかり人目にわからなくなったので、共々、私までやめさせられてしまった。ピアノは、やさしいソナタ位弾けるようになっていた。別に努力もせず気まぐれに弾いていた。
しかし、ここにふたたび私の心はぴっしゃんこにつぶれてしまう時が来た。
ある放課後、私は五人の女の児をひきつれて大きな御邸の前へ来た。庭にテニスコートがあり、そのあちら側にたくさんのけしの花が咲き乱れている。私はそれがほしくてたまらなかった。他の女の児達もほしがった。金網越しにそれを眺めていた。私は遂に決心して、ランドセルとおべんとう箱を、矢庭に道路へ投げすてると、金網を登りすばしこく越えはじめた。真剣な十の眼が、両手でしっかり金網をつかんだ間に並んでみえた。私は身がるに飛びこんだ。白いラインが殊更にくっきりと私の眼を射た。私は何か非常に重大な責務をあびているような感じがして、腰をかがめて走り出した。すぐに、けしのむらがりまで到達した。私は、紫や赤や白の花を、六本折った
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