覚えている。これが、ふたたび私のままっ子だということを裏付けしたように、そのとき、ひどく悲しく思ったことが、はっきり胸に残っている。そして、金ボタンをくるくるまわして、みっともないと叱られたこともその時だったらしい。
 私は家庭に対して愛着がなかったから、小学校へゆくことがさして苦にもならなかった。大人達には親しめなかったけれど、同じ年輩の子供達にはすぐ仲良くなり、餓鬼大将ぎみであった。よみ方の読本は、はじめっから最後の頁まで、すらすらよむことが出来たし、簡単な数字のタシヒキは兄や姉の傍らで自然に覚えてしまっていたから、ちっとも勉強しないでも、いいお点を取ることが出来た。
 人がわからないことが、自分にはわかる。これは幼い心に植えつけられた優越の喜びであった。けれども、私を押さえつける不愉快なものが一つあった。それは秩序ということであった。

     第二章

 二列に並んで、ハイ御挨拶。マワレ右。何度も何度もくりかえされる。私は背がひくかったので、前の方に並んでいた。朝、校庭で行われる朝会の時から、ランドセルを背負って校門を出る時間まで、今までの生活と違った窮屈さである。両手をあげ
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