の好きな乳母は、それを大層喜んだけれど、母はあまり嬉しそうではなかった。かむろ、藤娘、私は高い舞台ですぐに発表会に出演するようになった。
 一方、ピアノは姉の方が好きであった。これは又、なめるようにやさしい先生が、あまり練習をしないのにさっさと弾いてゆく私を、
「ボビチャマは、素質がおありになるわ、ねえママ様、ボビチャマの音はとってもきれいですこと。本当にのばしておあげするわ、わたくしも張合がございますわ」
 と又称讃した。この辺りから、私はひがみっ子ながら自信が出て来て、御稽古ごとで、大人の舌をまいてやろうと思うようになった。悲劇の捏造がしばらく停止したのはこの頃であろうか。おじけながらも、かえってそれが負けぬ気となり意地っぱりとなり傲慢さともなったのである。
 金ボタンのついた白いケープを着て、私は小学校の門をくぐった。私の父もこの学校を出身しており、私は、兄妹につらなって、歓迎されるように入学したのであった。しかし、かなしいことが一つあった。年寄った看護婦さんが、
「お嬢さんは母乳ですか牛乳ですか」
 と母に尋ねたらしい。とにかく、
「殆ど、牛乳でございますの」と母が云ったように
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