校を卒業し、体だって丈夫になっている。それにどうだ。私ときたら学校も中途半端。給仕という職務にたずさわっており、しかも優しさだとか献身的な愛情をこれっぱかしも持っていない。――これすら馬鹿げ果てている。
 私は会社がひけるとあの未亡人の家を訪れた。
「おばさん、私は又死にたくなっちゃった。もう何もかもいや。私、本当に何にも執着ないの、欲求もないの、自分がみじめすぎるわ、これ以上生きてくことは。それは無駄ね。私もう働くこともいやだし、じっと静かに考えることもいや。自然を眺めてることだって出来ないし、人と接触して、愛したりすることも私には大儀なのよ。死んじまう。さっぱりするわ」
 彼女は、私の上っついた言葉をはくのに優しいまなざしでみまもっていてくれた。
「あなたのいいようになさいよ」
 彼女は私に煙草をすすめ、自分も長い煙管でゆるやかな煙をはいた。私は、ピアノの蓋を乱暴にあけると、ショパンの別れの曲を弾き出した。感傷じみた自分の行為が喜劇的に思われた。私は同じモチーフのくりかえしを何度もつづけながら
「全く複雑のようで簡単ね。死ぬ人の心理なんて。死ぬ動機だって一言で云いあらわせてよ。死に
前へ 次へ
全134ページ中119ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久坂 葉子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング