きふきやって来て私と同様黙って仕事の手伝いを始めた。
 そのことがあってから、何かしら彼と喋る時は意識してしまい、他の誰かが私達の動作を見守っていないかという懸念をたえず心の中に置いていた。私は彼のたくましい体にすくなからずひかれていた。時々、彼と退社後、闇市のうすぐらい電燈の下で、お好み焼を食べたり、油っこいうどんを汗かきながらすすったりした。田舎出の少年は、おそるべき健啖ぶりであった。彼は、冷いのみものや、氷菓子を好まなかった。鉄板にじいじい音をたてて焼かれる丸いかたまりを、卵起しのような四角いブリキで――こてというそうだが――大胆に切り目をつけて、ぱくつく彼の口もとを私ははしゃいだ気持で眺めていた。
 大岡少年と私のことは噂にのぼらなかった。彼は人の注目の的になるはずがない位みにくい容貌であり滑稽なほど間抜けてもいた。皆がさわぎたてるのは、復員して帰店した二十七八の社員や、ふっくらした赤ら顔の少年達であったから。私は、彼が目上の人に叱られている時は、きいていないふりをしていた。彼は毎日何回となく、気がきかん、とあっちこっちから怒鳴られていた。私は出来るだけ彼をかばって、一度に三つ
前へ 次へ
全134ページ中109ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久坂 葉子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング