四つも仕事を頼まれている時は、自分の部所をはなれてまで手伝った。そのために、私も叱られてしまうこともあった。ポケットに手をつっこんで、ぽやっと事務所の隅々を眺めている分家氏は、時々私と大岡少年の口をきいているさまに、ゆがんだ口許をさらにひんまげて、おかしな笑いを洩らした。私は、分家氏と目が会うと、必ず、はじらいの微笑をつくり上げて、愛想よく首をかしげた。彼は私を気に入っていた。
街に、うすいウールや毛糸が出はじめる頃、突然、大岡少年は東京の支店へ転勤させられることになった。別に取立てて理由はなく、半年位たてば、交代に、三つの支店へ派遣されることになっていた。彼は、さみしそうでもなく、一人一人の社中の人に挨拶をした。私の前でも、真面目な顔でお辞儀をし、小さな包みを机の下の私の両手の上にのっけた。私が挨拶される一番しまいの者であったから彼はさっさと部屋を出ていった。小さな包みは、記念品とかいた新聞紙につつまれた外国製の口紅であった。外観と中身とが、とっ拍子もなくかけはなれているのに、私は微笑みをもらした。何か字をかいたものがないかとたんねんに新聞紙をひろげなおしてみたが、四角いペンの字で
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