かげでその日はとうとう来たのだ。さてこれからは、どうなることやら。
 わたしたちはそれを長く心配するひまはなかった。証文《しょうもん》の期限《きげん》が切れたあくる日――この金はこの季節《きせつ》の花の売り上げでしはらわれるはずであったから――全身まっ黒な服装《ふくそう》をした一人の紳士《しんし》がうちへ来て、印《いん》をおした紙をわたした。これは執達吏《しったつり》であった。かれはたびたび来た。あまりたびたび来たので、しまいにはわたしたちの名前を覚えるほどになった。
「ごきげんよう、エチエネットさん。いよう、ルミ。いよう、アルキシー」
 こんなことを言って、かれはわたしたちに例《れい》の印《いん》をおした紙を、お友だちのような顔をしてにこにこしながらわたした。
「みなさん、さよなら。また来ますよ」
「うるさいなあ」
 お父さんはうちの中に落ち着いていなかった。いつも外に出ていた。かれはどこへ行くか、ついぞ話したことがなかった。たぶん弁護士《べんごし》を訪問《ほうもん》するか、裁判所《さいばんしょ》へ行ったのかもしれなかった。
 裁判所というとわたしはおそろしかった。ヴィタリスも裁判所へ行った。そしてその結果《けっか》はどうであったか。
 そしてその結果をお父さんは待ちかねていた。冬の半分は過《す》ぎた。温室を修理《しゅうり》することも、ガラスのフレームを新しく買うこともできないので、わたしたちは野菜物《やさいもの》やおおいの要《い》らないじょうぶな花を作っていた。これはたいしたもうけにはならなかったが、なにかの足しにはなった。これだってわたしたちの仕事であった。
 ある晩《ばん》お父さんはいつもよりよけいしずんで帰って来た。
「子どもたち」とかれは言った。「もうみんなだめになったよ」
 かれは子どもたちになにかだいじなことを言いわたそうとしているらしいので、わたしはさけて部屋《へや》を出ようとした。かれは手まねでわたしを引き止めた。
「ルミ、おまえもうちの人だ」とかれは悲しそうに言った。「おまえはなにかがよくわかるほどまだ大きくなってはいないが、めんどうの起こっていることは知っていよう。みんなお聞き、わたしはおまえたちと別《わか》れなければならない」
 ほうぼうから一つのさけび声と苦しそうな泣《な》き声が起こった。
 リーズは父親の首にうでを巻《ま》きつけた。かれ
前へ 次へ
全163ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング