うり出した。アレンとネッドはぷっとふきだした。
「さあ、これがくつ下です」とわたしは言った。「あなたがたはぼくの犬をどろぼうにしましたね。ぼくは人のなぐさみに使うために犬を連《つ》れて行ったのだと思っていました」
 わたしはふるえていて、ほとんど口がきけなかった。でもこのときはどしっかりした決心をしたことはなかった。
「うん、なぐさみのほかに使ったら」と父親は反問した。「おまえ、どうするつもりだ。聞きたいものだね」
「ぼくはカピの首になわを巻《ま》きつけて、これほどかわいい犬ですけれど、ぼくはあいつを水にしずめてしまいます。わたしは自分がどろぼうにされたくないと同様、カピをどろぼうにはしてもらいたくないのです。いつかわたしがどろぼうにならなければならないようなことがあれば、わたしは犬といっしょにすぐ水にしずんでしまいます」
 父親はわたしの顔をしげしげと見ていた。わたしはかれがよっぽどわたしを打とうとしかけたと思った。かれの目は光った。でもわたしはたじろがなかった。
「おお、ではよしよし」とかれは思い返して言った。「またそういうことのないように、おまえ、これからは自分でカピを連《つ》れて歩くがいい」


     ごまかし

 わたしは二人の子どもにげんこつを見せていた。わたしはかれらにものを言うことはできなかったが、でもかれらはわたしの様子で、このうえわたしの犬をどうにかすれば、わたしにひどい目に会うであろうと思った。わたしはカピを保護《ほご》するためには、かれら二人と戦《たたか》うつもりでいた。
 その日からうちじゅうの者は残《のこ》らず、大っぴらでわたしに対して憎悪《ぞうお》を見せ始めた。祖父《そふ》はわたしがそばに寄《よ》ると、腹立《はらだ》たしそうにつばをはいてばかりいた。男の子と上の妹はかれらにできそうなあらゆるいたずらをした。父親と母親はわたしを無視《むし》して、いてもいない者のようにあつかった。そのくせ毎晩《まいばん》わたしから金を取り立てることは忘《わす》れなかった。
 こうしてわたしがイギリスへ上陸《じょうりく》したとき、あれほどの愛情《あいじょう》を感じていた全家族はわたしに背中《せなか》を向けた。たった一人赤んぼうのケートが、わたしのかまうことを許《ゆる》した。でもそれすら、かくしにかの女のためのキャンデーか、みかんの一つ持ち合わせないときに
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